―HIROの非日常―

そう全ては、コノヨノマボロシ―Worldly Phantom―……非日常が加速する。

コノヨノマボロシ第一期《起》  >>1 >>2 >>3

コノヨノマボロシ第二期《承》  >>1 >>2 >>3 >>4

コノヨノマボロシ第三期《転》  >>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10

コノヨノマボロシ第四期《結》 >>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9

コノヨノマボロシ EX story   >>1 >>2 >>3 >>4



コノヨノマボロシ――EXstory――Valentine Day。


 朝日が差し込み始めた。

 今日は2月14日。

 Valentine Day。

 それは、一年に一度やってくる勝負の日。

 それは、非日常の毎日に現れた”当たり前の日常”であるはずのイベント。

 ―それは。

 ――それは……。

 



 ―――それはまだ全てが始まっていなかった頃の物語。





【コノヨノマボロシ――EXstory――Valentine Day】




 すでに時計は午前5時を回っていた。
 作業は昨日の21時から始めたはずなのに、味見と失敗を繰り返した結果のせいか満足できる物ができるまでここまで時間が掛かってしまったようだ。

 しかしこの瞬間は、完成の喜びと湧き上がる興奮と少しの不安によって睡魔は不思議と感じなかった。
 
 『見た目はどうあれ、味は……大丈夫なはず。』

 ずっとエージェントとして生きてきたため世間一般的なバレンタインのチョコレートなんて分からないので形こそ歪だが、味だけは味見を繰り返し自信が持てるものにできた。

 さて、これを渡す前に少し小休止するとしよう……。
 ゆっくりとベットに倒れこみいままで感じなかった睡魔に体を預ける事にする。
 

 『おやすみ隼人……』

 ベットの傍らに置いた”憧れの人”の写真にそう告げて眠りにつく。
 
 


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ――ピピピッ。

 軽快な着信音で目覚める。
 この着信音は携帯ではないことに気づく。
 そして時計は午後6時を回っていた。任務連絡用の情報端末からの連絡が入っていることと予定より寝過ごしてしまったことへの焦りでベットから落ちてしまう。

 腰に伝わる鈍い痛みに顔を歪めながら、情報端末を手に取る。

 『……はい、コチラ《紅》』

 【――声帯認証確認。《紅》と確認、本部に接続します。――】

 『《紅》ご休息中に申し訳ありません。エリアG―15にてレベルB+サードです。至急現場に向かって下さい、また危険が予想されますので救援を手配いたします。』

 『了解』

 また、いつも通りの非日常が始まるのかと思うと気分が沈む。
 クローゼットを開け、目の覚めるような朱色のカットソーにデニムパンツに着替え、漆黒のコートを羽織り愛刀のナイフを腰のホルスターに収める。
 
――そして、コートの奥にそっと完成したモノを押し込む。

 最低限の準備を済ませ早足で自宅を後にする。
 エージェント特有の超人的な跳躍力で目的地へ向かう。
 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^


 エリアG―15、住宅街に隣接する大規模なショッピングモールの辺りと確認。
 ちょうどショッピングモールの中央に存在する広場に着地し辺りを警戒する。

 『住民の避難は終わっているのね……』

 常に人が絶える事がない場所が無人であるため少々不気味である。
 フゥと息を吐き出すのと同時に後方から静寂を破る爆音。

 色とりどりの建造物の瓦礫を押しのけ姿を現せた”人外”。
 報告によると危険レベルB+、優秀なエージェントなら一人で片付けられるレベルであるはず。
 決して楽観視しているわけではないが、そこまで危険視する必要はない(少なくとも少数精鋭であるエージェントの基準である)と考える。
 サードは、こちらに気づくとまるでカマキリのように伸びた二本の腕が進化したと思われる鋭い鎌のような形をした蝕椀を耳を劈く咆哮と共に振り上げる。
 その刹那、サードの蝕椀の根元を【自然発火能力】で炎上させる。
 それにサードが怯んだのを確認する前にサードの懐に超速で入り込むと蝕椀に愛刀を両腕で間接であると確認できる部分を全力で切断する。
 
 それと同時にサードの断末魔に似た咆哮が続いたあと、もうひとつの蝕椀が振り下ろされる。
 だが、そんなことは想定内である、振り下ろされる前に後方へ跳躍する。
 サードの蝕椀が空を切り、コンクリートの地面を砕く。
 
 ――大したことはなさそうだ……。

 内心、ホッとする。
 しかし、丁度サードが破壊した瓦礫を方から少年の鳴き声が聞こえる。
 
 ――しまった、逃げ遅れがいたの!?

 気づき、最速のスピードで声がする方に失踪するが、少年を抱きかかえるの同時にサードの蝕椀に突き飛ばされてしまう。
 
 『ぐっ……あぁ……』

 泣きじゃくる少年を庇うように壁に背中から激突した衝撃と苦痛で体の自由が聞かなくなる。
 その間にもサードが目の前に迫り、残った蝕椀で追撃を仕掛けてくる。
 振り下ろした瞬間、走馬灯のように”憧れの人”の顔が巡った。

 


  ――『助……けてよ……はや……と……』

  
 
 
 本能的に瞳を閉じる。
 
 ……が、サードの蝕椀は重力に逆らわず、地面に”落下”する。
 
 『呼んだか?紅姫』

 少年を庇うように倒れていたが、徐々に力が入り始め、立ち上がる。
 そして、目の前に”憧れの人”が立っていた。

 『珍しくドジッたみたいだな?大丈夫か?』

 助けた少年は自分の力で走り去ったようだ。
 サードの姿もいまはなく、そこにはただの肉塊だけが転がっていた。

 『あ……ありがとう』

 差し伸べられた手を取り、立ちあがる。

 それと同時に隼人の目が自分から外れていたことに気づく。

 『なんだコレ?』

 隼人がかつてカワイイ包装に包まれていた。
 チョコレートを拾いあげる。

 『あっ……それは……本部のみんなに配ろうと思って……』

 などと苦しい言い訳をする。
 すると隼人が包装をあけ始めた。

 『チョコ?』

 『そ……そうだけど、そんなのもう食べられないから捨てちゃってよ』

 もうすでにコナゴナになり見る影もない。
 そのチョコを隼人はジーッと見つめ、欠片を一口。

 ――パクッ。

 『ぁ……』

 そんな声が漏れる。
 隼人はそれを嚥下すると感嘆の声を上げる。

 『うまいじゃん!!コレ!!』

 ”憧れの人”の笑顔と、うまいうまいと苦労して作ったチョコを食べてくれていることに顔を真っ赤に染める。

 
 ――『ありがと、紅姫』

 
 ――その一言に私は、一層顔を朱に染めた。


 




 ――まだ、全てが始まっていなかったころの話。



 



 ――コノヨノマボロシ――EXstory――Valentine Day。



 
――Fin
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