―HIROの非日常―

そう全ては、コノヨノマボロシ―Worldly Phantom―……非日常が加速する。

コノヨノマボロシ第一期《起》  >>1 >>2 >>3

コノヨノマボロシ第二期《承》  >>1 >>2 >>3 >>4

コノヨノマボロシ第三期《転》  >>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10

コノヨノマボロシ第四期《結》 >>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9

コノヨノマボロシ EX story   >>1 >>2 >>3 >>4



SSS

 依頼SSS(ショートショートストーリー)(タバコ・恋・引きこもり)





 無題。





 −−−−−−



 薄暗い空間に一人きり。



 いつもと変わらない日常に飛び込んできた彼女に。



 俺は……恋をした。



 −−−−−−



 俺には、外の世界は必要ない。

 この限られた空間。6畳ほどの部屋と、このPC画面だけが俺の生きる世界だ。

 朝の光をここ何日浴びていないだろうか?数えようとして、くだらないと放り出す。

 いつだって俺は、中途半端だ。



 『あなたにとり憑いてもいいですか?』



 この空間に声がした。

 綺麗なソプラノ調で、透明感のある声。

 しかし辺りを見回すも人影はなし。というか、この部屋には自分以外いない、いるはずもない。

 この部屋に閉じこもって1年。両親でさえ、踏み込ませたことなどないからだ。

 



 『こっちですよ』



 こんどは、聞き間違いではないことに気付く。

 しかし辺りを見回すも人影はない。



 『こっちだってば』



 今度ははっきりと、声がする。

 自分の目線よりも、上……天井からだった。



 『えっ・・・・・・』



 絶句した。

 人は宙に浮けるものなのか?いやまて、それ以前にコイツはどこからこの部屋に入った?

 いやいやまてまて、なんだこの状況は。

 

 『どちら様ですか?』



 絶句を飲み込んで出た言葉。

 あまりにもふがいないが、俺はそんな一言しかでなかった。



 これが、俺と、”彼女”の出会いだった。



 −−−−−−



 朝の光。



 『起きてよー、ねぇ朝だよ?』



 あの日から、一度も熟睡できない。

 コイツにとり憑かれたあの日から。



 『もう少し寝かせてくれよ・・・』



 いつもと同じパターンな気がする。いつもならここで・・・・・・。



 『うぐっ・・・・・・』



 急に四肢に鎖を繋がれたような苦しさを受け、一気に目が覚める。



 『起きた?』



 『あぁ、起きたから早く金縛りを解いてくれ。』



 そう、いつだってコイツの起こし方は最悪だ。

 昨日はキーボードが飛んできたな、しかも角が頭に直撃した。



 『その起こし方どうにかならないのかよ・・・』



 やれやれと体を起こして、時計を確認。

 まだ6時じゃないか・・・・・・。



 もう一度ベットに倒れこもうとすると、アイツが睨み付けてきたので、やめておく。

 今日は早めに行っておくか。



 俺には、日課がある。

 その日課のときだけ、俺はこの部屋を出て、外の世界へ出る。



 家から10秒の自動販売機までタバコを買いにいくために。

 

 『いってくる』



 それだけ言い残し、300円を握り締めてドアノブを捻る。



 夏のにおいの残る外の香りは俺の鼻を刺激する。

 ここに俺の居場所はない。

 ……わかってる。



 『ただいま』



 この言葉を口にするのも、ヘンな話だ。

 それもこれもコイツのせいで・・・・・・。



 『なぁ、お前、いい加減出てけよ』



 その声に少しムッとした顔で答えた。



 『私、邪魔?』



 『あぁ、邪魔だ』



 即答。



 またムッととした。

 ちょっと可愛い。

 正直な所、コイツが部屋に住み着くようになってから俺の生活は充実していた。



 『お前がいると、集中できないんだよ』



 『何に集中するの?』



 ぐっ……。

 ニタニタと笑みを浮かべながら、痛いとこをついてくる。



 『うるせーな……』



 『ガマンしてよ、あと今日までの辛抱じゃん』



 そう、こいつとの契約は1週間。

 最近の幽霊は契約を結んで、契約した人間のなにか大切なものをひとつ奪うことで自己を保つらしい。

 迷惑な話だ。



 『お前・・・俺の何を奪うつもりだよ』



 彼女は、考える素振りを見せながら言う。



 『それは秘密!、それじゃそろそろ時間だから。』



 うまくはぐらかされ、別の話題に変えられる。

 コイツは完全に日が昇ってから10分間を除いて、日が上っている間、存在できないらしい。

 そこはなんだから幽霊っぽい。



 『わかった』



 それだけぞんざいに答え、天井に向かって手を振る。

 次の瞬間、そこにはもう何も存在していなかった。



 『また一人か・・・・・・』



 PCの電源を入れて適当にサイトをめぐる。

 スライドショーのように情報が流れてくる。

 必要のない情報でさえ、目に留めて確認しなければならないほど時間をもてあます。



 1時間ほどして、PCの電源を落とした。

 一人の孤独を思い出し、イスにもたれかかる。



 『俺の大切なもの・・・・・・か・・・・・・』



 机に置いてあったノートを手にとって開く。

 その端っこに小さく、ペンで書く。



 【俺の最初で大切な恋】



 そう、俺の空間に転がり込んできたアイツの存在が唯一大事なのかも知れない。

 そうなると、アイツはアイツ自身の存在を奪うことになるのか。



 くだらない思考を停止して、もう一眠りすることにする。

 ベットに倒れこみ、まどろみの意識の中で、アイツを思う。



 −−−−−−



 目を覚ますと、時計の針は19時を回っていて、窓からは半分だけの月が出ていた。



 『おはよう』



 『もうこんばんはだろ?』



 憎まれ口を叩きながら、顔を上げてやる。

 アイツの姿を見て、俺は驚いた。



 『お前、もう体が半分……』



 口にするのが恐ろしくて、言葉を飲み込んだ。



 『そろそろ契約の時間だからね。』



 1週間というのは、堅実に守られるらしい。

 そうするとあと10分ほどでコイツは消える計算だ。



 『そうか……せいせいする』



 最後の最後まで、この憎まれ口は直らなかったな。

 

 『じゃあそろそろ、契約の代償を貰うことにする』



 そう言うと、コイツは机においてあったノートをひょいと拾い上げる。

 そして、あるページを開く。

 そう、あのページ。



 『アナタから、この恋の相手をもうらうことにする』



 『容赦ないな……でも、それ無理だぞ』



 もう半分ほど消えかかった姿を見つめながら、言う。



 『できるよ。』



 その思いがけない言葉に驚いた。



 『ごめんなさい、私、消えている間は契約した相手の意識をリンクできるの』



 驚いたが、彼女の落ちついた声に冷静さを取り戻す。



 『どうしてもそれじゃなきゃダメなのか?』



 『アナタが本当に大切にしてるものじゃなきゃダメなの』



 ダメなのか?ともう一度問いかけようとして言葉を飲み込む。

 彼女の目に射抜かれ、体が言うことを聞かなかった。



 『最後の最後まで、こんな形でごめんなさい』



 口が動かない、体も動かない。



 『突然現れて迷惑だったよね』



 ”そんなことない”と叫ぶ、しかし、口は閉ざされたまま、微動だにしない。



 『だからせめて、アナタの最初で大切な恋だけは叶えてあげたい』



 そういうと、ゆっくりと眼前に彼女の顔が迫る。

 消えかかった手で俺の顔に触れて、消えかかった唇で、俺にキスをした。



 唇に触れる感触さえ、ないことに、怒りさえ覚えた。



 『ごめんなさい……』



 唇を離し、彼女がそう呟いた瞬間。

 俺の意識はまどろみの中に再び戻された。



 



 −−−−−−



 光が差し込む。



 彼女と出会って8日目の朝。



 彼女の姿はなく、そこには8日前にあった、薄暗い空間だけが存在していた。



 タバコが切れていることを思い出し、300円を手に取ってドアノブの捻る。



 『いってくる』



 







 ―――いってらっしゃい。













 誰かの声がした気がした。







 
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